2015年12月13日日曜日

してきな週末 in 鎌倉

ちょうど一週間前の日曜日、ウチダゴウさんという方の詩の朗読会に参加しました。

小さな偶然が重なってのことでした。(全てがそうかもしれないけれど)

はじめにウチダさんのことを知ったのは、数ヶ月前に、活版印刷関連の画像検索をしていて、とあるカードの画像を「お!?」と気になってリンク先を辿ったのがきっかけでした。

「してきなしごと」と名付けられたホームページの中の、「花の銅版画」と名付けられたその繊細な詩のカードは、詩が銅版画のような奥行きを持つと感じられたことから命名され、その気配を表現するために活版印刷で刷られている、というものでした。「えっと、まず、詩が銅版画っぽい、それから銅版画っぽさを出すための活版印刷」という、左脳で考えようとすると一瞬混乱してしまうような思考の過程も、右脳で想像すると、「ふむふむ、ゴクリ、うまい」とお茶を飲むようにすんなりと入ってくるのでした。

気になってAbout欄を読むと、「世界は気分でできています」という言葉にはじまり、「世界の正解より気分に素直」で締めくくられるそのページと、「詩人/グラフィックデザイナー」という肩書きを見て、「ぬぬぬ!」と思いました。(どんなだ)
その他のお仕事欄を見ると、手がけられたロゴデザインの数々もどこか詩的かつ簡潔で、すぐに自分のパソコン上の「気になるものや人フォルダ」へクリップしたのでした。

それから数ヶ月経ったある日、フェイスブックで、この春(私がバクテリアの活版ポストカードを蠢かせた)活版展でお世話になった、鎌倉のbooks mobloの店主の 荘田さんから、とある詩の朗読会の招待状を受け取りました。
「ウチダゴウ朗読会 ながいたび」という題名を見て、「あの、気になる人フォルダの!」と、慌てて参加ボタンを押しました。

そして先週、彼氏を誘って、春以来となる鎌倉を訪れました。
休日の鎌倉は、特に小町通りはまるで竹下通りのように賑わっていたので、裏道を歩くことにしました。(もともとそっち派だけど)
コーヒーを飲んで、歩いて、またコーヒーを飲んで、ラーメンをズズっと食べたらあっという間に日が暮れたので、朗読会の会場であるbooks mobloへ急ぎました。

考えてみれば、前々から詩は大好きなのに、朗読会というものに参加するのは初めてでした。
店頭で頂いた異様に美味しいホット・レモネードを啜りながら、朗読が始まるのを待っていると、少し緊張してきて、それで「そういえば、こういうの初めてなんだ」と気がつきました。

絵でも演劇でも踊りでも音楽でも、何かを鑑賞する時は「我を忘れる」のが一番で、緊張なんてするのは「それを観ている自分、聞いている自分」が他人からどう見られているか意識してしまっていて、ちゃんと味わえていない状態だよな〜と思いつつ、わかっていても、すぐには真っ白になれないのでした・・・。

ウチダさんの朗読が始まってしばらくは、自分が唾を飲み込む回数や音が気になり始めたり、ソワソワしていたのですが、いつの間にか、ウチダさんの出会った旅先での情景が、朗読とともに浮かび上がってくるようになりました。詩の朗読もさることながら、一編読み終える毎に 話されるエピソードがこれまた面白く、詩の背景を思い浮かべる手助けをしてくれて、ああ、これが朗読会の醍醐味なんだな、と感じました。

途中、ウチダさんが持ってこられたウィスキーの話になり、飲んべえ客は少し頂くことになりました。名前は忘れてしまいましたが、ほんのり花のような香りのするスコッチ・ウィスキーをチビチビ傾けながら、さらに(我を忘れて)詩の先にある世界へ飛んで行きました。

朗読会の後に少しお話しした際に、ウチダさんが「写真の代わりに詩で伝える旅行ガイドがあれば面白いと思うんです」というようなことを仰っていて、ああ、それは確かに可能なことなんだと思いました。むしろ、モン・サン・ミッシェルの素晴らしい写真を見て期待を膨らませて訪れたら、(お城を渦巻く土産物屋が)まるで熱海の土産物屋じゃないかあ!と憤慨した私も、写真でなく言葉のみ、それも詩でまだ見ぬ地への思いを馳せていたら、違う感動が見つけられたかもしれないのです。そして、朗読会が終わって一週間経った今も、まだ行ったことのない「私の想像する」エディンバラの風景がくっきりと浮かぶということは、すでにそれが成功しているということでしょう。

朗読会後に購入した「空き地の勝手」という詩集を読みながら、詩に登場するウェイターや痴呆老人、ヒーローや総理大臣になった気にもなれる為、詩のみで構成された職業案内もアリなのでは、と勝手に想像しています。

とても してきな 週末でした。



ウチダゴウさんのホームページ: