2015年9月20日日曜日

手品師

先週、とあるデパートでの催事、4日目でのこと。

売り場で実演販売をしていた私の側に、ひとりのおじいさんが寄ってきた。
実演販売の品は、どちらかと言うと女性向けの商品だった為、4日目にしてようやく板に付いてきた口上は引っ込めて、「こんにちは」と普通の声で話しかけてみた。

すると、おじいさんは待ってましたとばかりに、唐突にポケットから赤いスポンジ玉を取り出し、手品を披露し始めた。それは、おそらくは誰もが知っている、片手からもう一方の手に玉を移動させる、昔ながらの手品だった。

ほんわか楽しい気分になって、「今の、どうやったんですか?もう一回やって見せて下さい」とリクエストすると、嬉しそうに何度もやって見せてくれた。「あ、、もう結構です」とも言えずにいると、今度はトランプを使った手品も見せてくれた。こちらも、とてもシンプルかつベーシックなもの。種明かしと小道具の作り方まで教えてくれた。

「わー、すごい」という私の反応に気を良くしてくれたのか、おじいさんはデパートをグルッと周っては私の売り場に戻ってくる、を繰り返して、結局 、計2時間は何かしらを披露してくれたり、喋りかけてきた。その内、「こうした方がもっと売れるんじゃない?」等、私の販売技術についてのアドバイスもしてくるようになった。

他のお客さんもいるので、少しだけ困ったなと感じ始めていた頃、「じゃ、がんばってね!」と風のように去って行った。

その後、閉店まで30分ほどあったのだが、その間にそれまで全く売れなかった商品のひとつが売れた。おじいさんがアドバイスしてくれた方法、「相手が何を求めているかをただ見極めること」を実践しただけで。

「あなたほど私の手品に興味を持ってくれた人はいないよ、孫にも喜ばれないし」と言われたが、私の小学生の頃の将来の夢は「手品師」だったのだということを思い出した。
父がお土産に手品グッズを買ってきてくれたのをきっかけに、忍術や手品の本を夢中で読んだ。

ある日、小学校の何かの発表会でとっておきの手品を披露したところ、クラスメイトのM君に「また渡辺のくだらない手品がはじまったぞ〜!」と冷やかされて、泣いてしまったのを覚えている。それから簡単にくじけたのか、手品への興味も急速に薄れて、そんな夢を持っていたことすら忘れていたが、おじいさんのお陰で数十年ぶりに思い出した。

いつか、またおじいさんとバッタリ会うことがあったら、楽しかった時間とアドバイスのお礼を伝えたい。二つ三つ、種明かし付きの手品を披露しながら。








0 件のコメント: