初めてニューヨークで「暮らした」のは、19歳、1998年の事だった。
当時はインターネットはおろか、携帯電話も普及していなかったので、手描きのルームメイト募集の張り紙をあちこちの美術大学の廊下に貼りに忍び込んだりした。
レターサイズの目立つ色の画用紙に、マジックで下記の情報をイラストを交えながらババッと書いた。
・E.26st, Midtown, Manhattan (東26丁目、ミッドタウン、マンハッタン)
・Rent $XXXX/Month, One month deposit (家賃◯◯ドル、敷金ひと月分)
・Seeking for a polite WOMAN (礼儀正しい女性を募集)
・Non-smoker (禁煙者)
・Please contact 212-XXX-XXXX (ご連絡はこちらまで)
このようなことを、街中で見かけた張り紙や、ビレッジボイスなどの募集広告を見て、見よう見まねで書き連ねた。下の部分に電話番号を10列くらい書き、境目にハサミで切り込みを入れて、気になる人がいれば、そこだけもぎ取れるようにした。
(今のようにネットで拡散の心配がなかった頃は、このように個人情報はあけっぴろげだったような気がする)
メールがないため、電話番号を書く他なく、初めはドキドキしたものの、2、3人と対応している内に、電話越しの話し方だけで(自分にとって)アリかナシか何となくわかるようになった。確か4人目くらいにかけてきてくれたロビンという同い年くらいの女性の話し方にピンときたので部屋を見に来てもらい、お互い気に入り、少しの間一緒に住むことになった。
私の方は、ニューヨーク・フィルム・アカデミーという映画学校へ通う為に渡米したものの、あることがきっかけで取りやめにし、渡米ひと月目にして先行きが白い煙に覆われていた。
ある日、そんな私を見兼ねて、ロビンが自分の故郷のアップステート・ニューヨークへの里帰りに一緒に来いと誘ってくれた。はっきりとは覚えていないが、シラキュースあたりだった気がする。そしてそれはたった2泊3日ほどの旅だったのだが、私のその後の人生を変えるきっかけをくれた旅でもあった。
後編へつづく
0 件のコメント:
コメントを投稿